昭和のアイドル
OM10のキャンペーンガールであった大場久美子さんには「一億人の妹」というキャッチフレーズがついていた。
昭和のアイドルにはたいていこのようなキャッチフレーズがあって、その個性を印象強く打ち出し売り出していたわけだ。
ちなみに主な昭和アイドルのキャッチフレーズがこちら。
石川秀美|さわやか天使
荻野目洋子|ハートは、まっすぐ。
柏原よしえ(柏原芳恵)|ちょっと大物
河合奈保子|ほほえみさわやかカナリーガール
菊池桃子|REAL1000%
小泉今日子|微笑少女
酒井法子|おきゃんなレディ
中森明菜|ちょっとエッチな美新人娘
西村知美|一秒ごとのきらめき…知美
早見優|少しだけオトナなんだ…
松田聖子|抱きしめたい! ミス・ソニー
松本伊代|瞳そらすな僕の妹
山瀬まみ|国民のおもちゃ新発売
いま思えば、アイドルも商品だ。昭和のアイドルであっても、こうしたコンセプトが個性豊かで印象的なキャラの人物は、平成末期の現在までもしっかり活躍されている。コンセプトがしっかりしていることが商品をヒットさせる極意といえるのだろう。
宇宙からバクテリアまで
さて、本題だが、「宇宙からバクテリアまで」とはOLD OMシリーズの製品コンセプトだ。
オリンパス社のホームページににかつて表示されていた説明を一部抜粋しよう。
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一眼レフカメラの「三悪」克服
「大きい」「重い」「シャッターの作動音、ショックが大きい」という3つの欠点
「三悪」。
これを追放したのはOMシリーズです。
世界最小最軽量のボディと【 宇宙からバクテリアまで 】というコンセプトを実現するための壮大なシステム。
OMシリーズは、大ヒット商品となりました。
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これまでOLD OMシリーズを研究してきて、つくづく思うのは、モノづくりには基本があって、当時のオリンパスはその通りにやってるなーということだ。
売れるモノづくりの基本とは
1.よいコンセプトがある
その製品が目指している方向性や特徴を一言であらわすことだ。
よく、長いプレゼンのあと聴講者から「ひとことで言ってどういうこと?」と聞かれることがあると思う。
一言で言いきれるフレーズで表現できるコンセプトがいかに大切か。
2.特徴/個性がある
後発メーカであればなおさらだ。
先発と同じような商品で勝ち目はない。
いかに先発がもっていない領域を探すかだ。
新しい市場を開拓してこそ、市場占有率を高める手段となる。オンリーワンとはナンバーワンを目指すための手段なのだ。
5台カメラメーカの中で一眼レフ市場にはオリンパスは最後に参入した。だからこそ、強烈な特徴とオリジナリティが必要だった。
その点では、そもそも「顕微鏡メーカ」であるオリンパスの本来の得意分野である「ミクロ領域からマクロ領域まで幅広いシステムが構築できる」というコンセプトは正しい。
だが実際にはそれで売れるとは限らない。
やはりOMだけが、非常にコンパクトで軽くて静かという強烈な個性があったのだ。だからオンリーワンであり、小さい一眼の新しい市場ができた。ニーズをもつユーザもそこにあったのだ。
3.品質のこだわりを捨てない
開発した、米谷美久氏が素晴らしい方だったからこそなのだが、米谷氏の素晴らしさとは「写りのこだわり」を捨てなかったことにあるだろう。
こだわりとはなにか。
OMの場合であれば、第1に品質だ。そして第2に商品特徴だった。
品質を保つためにはたとえ商品の特徴を捨てても構わない。特徴を出す(売れるようにする)ためだけに品質のこだわりを捨てたりしないということだ。
それはズイコーレンズをみればわかる。
小さく扱いやすいレンズが多いものの、小さくしたために写りがわるいなんていうZUIKOレンズは一つもないのだ。
中には逆にサイズを大きくしたレンズもあるぐらいだ。
いかに品質にこだわるかが大切なのだ。
penにしてもXAにしてもその後のμにしてもコンパクトカメラであるにもかかわらず、プロがサブ機として選ぶぐらい写りには定評があった。
商品の品質はそれだけで営業をしてくれるものなのだ。
中森明菜とOM
商品づくりには「コンセプト」「特徴」「品質」が大切と述べた。
これに付け加えると、「真似をしない」ということがあげられる。米谷氏のインタビューにもあったのだが、「今あるものは作る必要はない。ないから作るのだ」との発言があった。
今なお心揺さぶる言葉だ。トップの真似をしないことも売れるモノづくりとして必要なことだろう。
さて、冒頭の昭和のアイドルのケースで言えば、中森明菜のキャッチフレーズは「ちょっとエッチな美新人娘」だった。
昭和の時代のアイドルが「ちょっとエッチ」とは、鮮烈な印象だっただろう。注目は集めたはずだ。でもそれで売れたわけじゃない。やはりその後の明菜の個性だ。
当時トップアイドルは松田聖子。他のアイドルたちは髪型や振り付けまで聖子のコピーのようだった。でも明菜だけは違った。ダークな歌をうたい。ちょっと不良ポイ。アイドルらしくない振る舞いが個性となった。で、歌は最高にうまかった!(最高の品質!)
中森明菜はOMシリーズと重なる。
OMが登場した1970年代初頭、当時のトップはダントツ、ニコンだった(1980年代前半くらいまではニコンのカメラが圧倒的にシェアが強かった。1990年代からキヤノンがシェアを拡大し、現在まで長らくキヤノンが圧倒的に強い)
で、当時はキヤノンをはじめとした他のメーカ達はしきりにニコンっぽいカメラをつくっていた。
そんな中、新規参入のオリンパスのOMシリーズは、他のカメラの特徴の真反対をいく「小さい」「軽い」「静か」というカメラづくりにこだわった!(現在これはあたりまえになったが)
そして写りは最高に良い。まさしく、中森明菜じゃないか!
こういう取り組みが商品開発には必要だよね。