OMのシャッター速度調整リングの謎

M-1(OM-1)から始まって、その最終系のOM-3Tiまで、OMカメラシリーズの特徴的な構造といえば、シャッター速度のダイヤルの位置にあるだろう。

今回は、そのOMカメラの独特な特徴の一つであるシャッタ速度ダイヤルについて取り上げてみた。

シャ速リングの位置の訳

多くのカメラでは、通常、軍艦部位置(巻き上げレバー・シャッターボタンの周辺位置)にシャッター速度ダイヤルが付いてる。

ところが、オリンパスOMシリーズでは、シャッター速度調整をリング形式で(「シャッター速度調整リング」と呼ぶ)、マウント基部(レンズマウントの付け根)にあるのだ。

そのため、ほとんどのOM ZUIKOレンズはレンズの先端側に絞りリングを配置している。(他社の多くは絞りリングを手前・マウント基部側に配置している)

 

こういう形状になったのは実は理由があった。

設計者の米谷美久氏は、製品開発のコンセプトとして「大きく・重たく・うるさい三大悪を排除する」とした。

そのコンセプトに基づいて、他社にまねのできない、より小さいカメラの開発が始まった。聞けば、当時のニコンの半分の大きさ、半分の重さを目指していたというから驚きだ。

だだ、必要なものは逆に大きくした。巻き上げレバーの形状や、マウント系やミラー、暗室部の容積は大きくしたのだ。そのためにギアやシャッター機能など必要な部品の収納容積はさらに小さくなる。小さな隙間ぎっしりと部品を詰め込む必要がでてきた。

こうしたことから、シャッター機能は暗室部の下部に配置せざるを得なくなった。これをカメラ上部の軍艦部から操作するのには無理がある。そのような工夫の中から、シャッター速度ダイヤルをリング式として、マウント基部に配置することになったのだ。

これがかえって操作性を充実させ、さらに当時最小最軽量というコンパクトさで世界を驚愕させたのだ。当時としては画期的な発想だったといえよう。

絞り優先マニュアル

私がOMを初めて手にした時、正直少々戸惑った。なぜなら、当時のニコンやキャノンが軍艦部においている様々なレバーやらダイヤルがかっこいいと思ったからだ。。正直、物足りなさを感じた。

ところが、使ってみて、そして慣れてきて、つくづくこの操作感には関心させられるのだ。

過去のAEブームの時代のオートといえば、「絞り優先AE」が中心だった。

絞りだけを操作すればシャッター速度は勝手にカメラが決めてくれる。なので、ササッと絞りの位置に手が行くことが肝要となる。

ところがマニュアル操作だとどうだろう。絞り優先で考えた場合には、絞りをセットしておいて、露出計に合わせ自分でシャッター速度を状況に応じて機敏に変えなければならない。

こういう状況を考えたときに、軍艦部にシャ速ダイヤルがあるのは頂けない。いちいち、ファインダーから目を離して、軍幹部を操作しシャッターを調整。そして、またファインダーをのぞきこんで露出を確認・・これを繰り返す操作となる。

 

これがOMの場合ではこうなる。

ファインダーをのぞき見ながら、絞りをセット、シャ速度を調整しながら露出を合わせる。

レスポンス対応能力がまるでちがうのだ。

しかもシャ速はいちいち目で確認する必要がない。なぜなら、すぐに体で覚えられるからだ。

リングを回すための左右の突起の位置が水平なら60秒だ。右を上げれば速度は速くなる。左を上げれば、1秒までだ。左をあげるときはブレに最大限注意だと体で覚えればよい。

軍艦部にシャ速ダイヤルがある場合、ファインダーから目を離さず、体で・・・というわけにはいかない。クリクリ回す、どこまで回したのか、現在のシャ速値は、さっぱりわからなくなるだろう。

ファインダーに速度が表示されるカメラもあるが、どうだろう。なぜなら、ファインダーをのぞきながら、レスポンスに備え、右手人差し指をシャッタ―ボタンにおいた状態で、どうやって右上部にあるシャッター速度ダイヤルを回すのだ?

赤塚不二夫のシエーのポーズになっちゃうだろー!!(笑)。

 

よく、OMの新機種が発売されるたびに雑誌などで、「OMはシャ速を確認するために前のめりにならないと見えにくい」などと評価するシッタカ記事を見ることがあった。

これは使ったこともない人の詭弁だ。使ってみればわかる。シャ速はダイヤルを目で確認しなくとも触って使ってみればわかるものなのだ。

つまり、マニュアルによる絞り優先撮影にはとても利便性が良い。チャンスに素早いレスポンスが可能だ。もちろん絞り優先AEは絞りだけを動かせばよい。

さらにはシャッター速度優先AEの場合にも有効と考えられる。だが、OMは最後までシャッター速度優先AEの登場はなかったのが残念だ(OM-2Spot&Programや、om40はProgramAEだった。)このOMの独特の形状を活かしてシャッター速度優先AEを実現すればよかったになとつくづく思う。

他にもあるシャ速リング式

OMの特徴な作りとして紹介したのだが、実はこの「シャッター速度調整リング式」はOMだけではない。

Nikon ニコマートFT、マミヤ NC1000S にも採用されている。

だが、ニコンもマミヤもすぐにやめてしまっている。レンズの絞りリング位置はマウント側でもあり、シャ速リングと絞りリングが非常に近いために、干渉し、使いにくいカメラになってしまったことが理由だろう。OMの場合はレンズもカメラも同時にOMシステムとして統一思想で生まれたカメラシステムだ。従って、操作的な統一ができていたのがうまくいったように感じる。

それにニコンは、絞り値をカメラに伝えるためのレンズの爪機能がその後不要となっても、ニコンの象徴として残された。こうしたアイデンティティーとの兼ね合いもあったのか、構造上無理があったか、シャ速リング式は廃止になった。写真でみてもなんとなく使いづらそうだ。

それにニコンは絞り値を光学的にファインダーから確認できる機種が多くあった。これは正直羨ましかった。OM機の場合にはどうやっても絞り値は目視しないとわからない。

それに、シャ速の操作性はばっちりだったが、絞りリングの位置はレンズ毎で位置が違うので、一瞬探すのに戸惑うことがある。まあこれについてはやむを得ないだろう。でもこの形状のおかげでシャ速の快適な操作が可能なのだ。我慢しよう。

近年のデジタル機にも採用してほしい

ところで近年のデジタル一眼レフ(ミラーレス)は本当にすごいと思う。かつてではできなかった絵作りができるというだけで感動だ。

ただ、シャ速や絞り値調整の操作性については意見がある。

 

例えばOM-D EM-1だ。

シャッターボタン近くの軍幹部にある二つのダイヤル、フロントダイヤルで露出補正。リアダイヤルは絞り優先オートでは絞り調整、シャッタースピード優先オートではシャッター速度を調整するようにできている。

最近のほとんどのデジタルカメラはこれの操作であたりまえのことであろう。でも私にはこの親指でクリクリするのはすきじゃない。まどろこしいのだ。F32からF2までさっと移動させたいのに、親指でクリクリクリクリやり続けなければならない。ブレの原因にもなるし、、そのうちシャッターチャンスを逃すかもしれない。

 

かつてのOMユーザ、オールドOMを親しんだ世代はみな、レンズのピントと絞りとならんでシャッター速度を左手で調整する。左手でピントリング、絞りリング、シャ速リングを回すのだ。

右手人差し指はシャッターに集中だ。だからいい作品作りが可能になるのだ。このスタイルは体に染みついている。これこそオリンパスの伝統でありOM文化といえよう。

どうして昨今のOM-Dのデジタルカメラでも、この操作性のOM文化を継承しようとしなかったのだろうか。伝統とは形だけでなく心の問題だ。

右手の親指クリクリよりもマウント周りににリングをつけてササーとレンズを支える左手で操作したほうがレスポンスは絶対にいいはずだ。

こうしたオリンパスが持つ操作性におけるオリジナリティを大切にした商品をこれからも出してほしいものだ。

 

あり得ないとは思うが、35mmフルサイズでOMマウントを活用した復刻版OMシリーズをデジタルで出してほしいものだ。その場合もちろんシャ速と絞り値はリング式でお願いしたい。もちろんシャッター速度優先AEも実現さえて。

まあ無理か。