OM707/OM101は残念ながらとても短命に終わったカメラだ。詳しくはこちらの記事を参考にしていただきたい。
この専用交換レンズ群にはZUIKO(ズイコー)のブランド名が与えられていない。「OLYMPUSレンズ」というのがその正式名称だ。マウントはOMマウントの改良型なのでOMレンズの部類とはなる。そこで本レンズ群をこのサイトでは「OM-AFレンズ」と呼ぶことにしている。
で、その「OM-AFレンズ」は種類も少なく発売期間も短く出荷量も少なく、中古市場ではとても稀少な存在だ。
「OM-AFレンズ」 軍は次の10種がある。(しかない)
- 24mmF2.8AF
- 28mmF2.8AF
- 50mmF1.8AF
- 50mmF2PF
- 50mmF2.8AF MACRO
- 28-85mmF3.5-4.5AF
- 35-70mmF3.5-4.5AF
- 35-70mmF3.5-4.5PF
- 35-105mmF3.5-4.5AF
- 70-210mmF3.5-4.5AF
ZUIKOブランドではないもののオリンパスのレンズだ。流石に映りは素晴らしいハズ! OLD ZUIKOにはない設計のレンズもあるらしいし、同スペックでも写りが改善されているのもあると聞く。
そう考えるとこの OM-AFレンズを何としてもデジタルで使いたい。縁あって私はこのレンズ群を全て揃えるのに成功した。
そこでマウントアダブターを探す。だが探せど探せど存在しない。レンズそのものが少ないのだ。利用者も少なければマウントメーカも製品にできないだろう。
そこで OM-AFレンズをソニーα.Eマウントへのマウントアタプターをついに自作したので、今回はその制作過程をレポートしよう。
OM-AFレンズってどんなレンズ?
OM-AFレンズはOLD ZUIKOと同じOMマウントを使っている。だが上位互換の設計思想でありOM707/OM101ボディにOLD ZUIKOを装着できるが、OM1桁/2桁ボディにOM-AFレンズは装着できないようになっている。
ちなみに、「OM-AFレンズをOM1桁/2桁ボディにくっつけると外せれなくなる」という書き込みをネット上でよく目にする。これは完全な誤りだ。いわゆる都市伝説の類で、実際に試してみると機構上付けられないようになっている。そりゃそうだ。外れないようになるなんてことをメーカが気づかないわけがない。あまりにOM707/OM101が不評だったためにまことしやかに語られた冗談が今日まで信じられてきたのだろう。ちなみに最近Wikipediaの記載も訂正された。
さて本題のOM-AFレンズについてだけど、大まかにいうと次の特徴がある
- 脱着ロックはボディ側
- OLD ZUIKOではレンズ側にロックがついている
- フォーカスリング(ピント調整リング)がない
- 基本AF(オートフォーカス)かPF(パワーフォーカス)のみしかできない設計になっている。すべてはカメラ側でコントロールする仕組みだ。
- 35-70mmF3.5-4.5AFや70-210mmF3.5-4.5AFなどのズームレンズではなぜかフードを回すとフォーカスヘリコイドが回わる駆動になっているが、単焦点レンズでは手動でのフォーカス調整は不可能だ。
- 絞り調整リングがない
- これもカメラ側で制御となっている。完全オートを目指したレンズ群で手動ではなにもできない。
マウントアダプターを制作するにあたっては、
- 脱着ロックの作成
- フォーカスリング(ピントリング)の作成
- 絞り調整リングの作成
が必要になるというわけで、この手間とコストを考えたら市場の小ささもありどのマウントメーカもこのマウントアダプターを作ろうとしないわけだ。だが、私はこの課題に挑戦することにしたのだ。
開発方針
当初は、OM707のボディをぶっ壊して、脱着ロックやフォーカス機構と絞り調整機構などの機能をそのまま活かしてマウントアダプター化できないかと考えていた。だが、マクロができるヘリコイドの付いたマウントアダプターをみて、ヘリコイド付きのマウントアダプターならフォーカス調整できることに気づいたんだ。
作り方
簡単に言うと
- ①OMマウント⇒ライカMマウントのマウントアダプター
- ②ライカMマウント⇒SonyEマウントのマウントアダプター
この2つのマウントアダプターを組み合わせることにした。
①にレンズ脱着機能と絞り調整ヘリコイドをつける加工をする、②はマクロヘリコイド付きを買えばいいだけだ。これなら小規模の加工開発で可能ではないか。
で、①のマウントアダプターの設計図がこれ。
はは。よくわからないと思うので、詳しく解説しようね。
材料
用意した材料がこちら
OM707をジャンクでいいので入手しよう。ほしいのはマウントリングだ。
PENTAXのDAレンズはボディ側から絞りを調整するようになっている。これに対応したマウントアダプターなら絞りリングがついているのでこのPKマウントをOMマウントに加工すればいい。
これは加工の必要はない。マクロヘリコイドがあるものを入手すること。これによりフォーカス調整を可能にさせる。
作業
早速作業だ。
右がPK→ライカMマウントアダプター。左はジャンクのOM707から取り出したOM-AFマウントだ。これを入れ替える。
PKマウントを取り外す。ところがOM-AFマウントの方が径が一回り大きいため、ガイドの淵が邪魔になるので削り落とす加工が必要だ。
さらにバラして、左のワッカを加工する。
これに使う工具がこれ。
で、こうする。
チュウイーンと思い切って削っちゃえ!
この調子でじゃんじゃんいこう。
で、こんなかんじになる。
まだ粗削りなので、真っ平にするために適当に滑らかなコンクリートを砥石にして擦り付けて削る。
シュリシュリと20分ぐらいがんばって、、、はい完成。
この時、気を付けるのはマウントアダプタ全体の高さを考えて削らないといけない。私はここを適当にやって大失敗。基本的にPKマウントのフレンジバック(マウント面から、フィルムもしくは撮像素子までの距離のこと)とOMマウントのフレンジバックはほぼ等しいので適当に削ってしまった・・これがあとで困ることに・・
で、私はここでねじ用の穴をあけ始めた。レンズの向きの関係でねじ穴の位置が変わるからだ。
この作業は全くの無意味だった。
なぜなら、最終的に接着剤をつかったからだ。強力な接着剤で合成する方がかえって手間がかからない。ただ、やり直しがきかなくなるので要注意!
ひとまずこのリングの加工はおいといて、レンズの脱着ロックの作成をする。
左がPKマウント。凹みがあるがそれと同じように右のOM-AFマウントを加工する。加工にはやはりホビーグラインダーが大活躍。 金属を削るのでダイヤモンド砥石を使おう
絶対削りすぎることになるので、削りすぎたら金属用のエポキシパテが必要。これは後でも使う。
こうして加工したOM-AFマウントをPKマウントがあった場所に接着剤で張り合わせて、レンズ脱着ボタンは完成した。
次いで、絞り調整ダイヤルを作る。
絞りダイヤルはPKマウントでは可動域がとても小さい。約20度ぐらいの回転しかない。OM-AFは40度ある。倍に広げないと。なので削る。
こうして削った削り口は塗装しよう。錆予防は欠かさないほうがいい。写真で使っているのはマジックではなく塗装ペンキをペン状になったもの。
内部にバネを付ける。ブルーガンで接着だ。このばねは、レンズ側の絞りレバーを動かす部品を固定させるために必要なのだ。
レンズ側の絞りレバーの動きに合わせて連動させる部品を考える。
連動する部品を作ったらこんな感じ。連動させるワッカはOM707の部品から調達した。エポキシパテをつかってワッカを固定した。
で、グリス注入も忘れてはならない。絞り調整リングなどの可動域はしっかりつけておこう。接着する領域には絶対つけない。接着できなくなる。
この部品を組み込んで、強力な接着剤で必要部分を組み合わせてOMAF→Mマウントの完成だ。つけすぎないように注意!つけすぎるとはみ出して可動するリングまで固定させてしまう。
M→SomyEマウントと合体して完成
早速使ってみよう!
誤算
ところがだ、大失敗だった。な、なんと無縁遠がでないのだ・・・。
試し撮りしてみた。(自宅の窓から)
中心付近を拡大してみる。無限遠がピンボケなのがおわかりだろうか。
ずばり、アダプタの長さがビミョウに長すぎたのだ。
基本的にPKマウントのフレンジバック(マウント面から、フィルムもしくは撮像素子までの距離のこと)とOMマウントのフレンジバックはほぼ等しいのでざっくり同じ長さでつくってしまった。細かく精密に計測しながら確認しないとだめだ。
そこでデジタル測定可能なノギスを入手した。0.01mm単位での計測が必要なので目測ではまず無理。
まず、普段使っているOM→SonyEマウントアダプターの長さを計測。
27.77mm
続いて、今回作成したOMAF→SonyEマウントアダプターをの長さを計測。
なななんと、28.08mm、、0.31mmも長かったのだ。ガーン。これが原因で無限遠はピンボケだ。
しかも超強力な接着剤をつかったのでこれもさらに仇になった。分解できない!
再加工
苦心の上、なんとか分解できるところを崩して、削ることにした。またコンクリートを砥石替わりにしてスリスリするしかなくなった。
スリスリ、、スリスリ、均等になるようにね。
計測しながらムラにならないように。
スリスリ。
若干はオーバインフになるよう、0.35mm削ることを目指すことにした。削りすぎても別のことで影響が起こるので、計算しながら、、スリスリ。スリスリ。
とにかく適当はダメです。
スリスリ。
仮に組み立てて検査計測。27.71mm。理想の若干のオーバインフ気味でできた!
また元の通り組み立てて、完成だが、想定外の削り作業が発生したため、心配していたことが起きてしまった。絞り調整リングの隙間がなくなり、非常に硬くなってしまったのだ。かたいのでリングを回すとき指が滑りやすい。痛いし。
そこでリングの周りにゴムを付けることにした。せっかくなのでOMレンズと同じ柄のゴムにしよう。
ゴムのおかげでかなり使いやすくなった。
さ、今度こそ完成だ!
レンズの向きも、装着後きちんと上になるように調整して作っている。
レンズの脱着も楽々。
うーん。完璧。ほれぼれ。
作例
では早速、作例をごらんいただきたい。50mm1.8AF 24mm2.8AFの作品。
映りはなかなかいいじゃないか。
OLD ZUIKOにも似たメリハリと発色の良さで逆光にも強い。なかなか気に入った!
ZUIKOブランドを使わず、OLYMPUSレンズとなったことで品質に自信がないのかと疑っていたが、なかなか実力あるレンズだということがわかった。他のレンズも楽しみだ。
OM707/OM101はカメラ機能としては散々たる評価だったのだが、そのレンズの性能はコダワリを捨てずオリンパスらしい素晴らしいい描写を維持していたことがとても嬉しい。デジタルで写してみてみないとわからなかった。
今回のマウントアダプター作りでまた新しい発見があったことがとても嬉しい。